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オーナー様からかけはし法律事務所へ寄せられるよくある質問をご紹介します。
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借家人が家賃を支払わないとき、どうしたらよいでしょうか。
家主名義で契約者本人に家賃督促の内容証明の送付をおすすめします。
家賃督促の内容証明の種類には、以下の2種類があります。
a.家主名義で保証人に家賃督促の内容証明送付
b.弁護士名義で契約者本人及び保証人に家賃督促の内容証明送付
また、家賃不払いによる解決は、以下のような流れとなります。
明け渡しを求める意向があるか
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はい
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↓
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いいえ
↓
督促・家賃支払いを求める
支払督促、少額訴訟、通常訴訟
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はい
↓
契約解除及び明け渡しを求める
内容証明を送付する
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応じない
↓
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いいえ
↓
3ヶ月超えるまで督促を繰り返す
|
話し合いがつけば
↓
和解、その後任意での明け渡し
|
話し合いがつかなければ
↓
判決
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話し合いがつけば
|
↓
任意での明け渡し
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話し合いが
つかなければ
↓
強制執行
家賃支払いを求める内容証明の文案を教えてください。
家賃支払いを求めるだけなのか、家賃を支払わなかった場合には明け渡しまで求めるかで若干文案が変わってきますが、この文案は単に家賃支払いを求めるだけの内容証明です。
内容証明文案
家賃支払請求書
冠省
私は貴殿に対し、下記の通りの約定でマンション1室を賃貸していますが、貴殿は平成23年1月から同年2月分までの家賃合計24万円を遅滞しています。
つきましては、本書到達後7日以内に契約において定めた振り込み口座に滞納家賃全額をお振り込みください。
万が一振り込みが無い場合には、貴殿に対して家賃の支払いを求める裁判を提起することになります。
(賃貸借契約の表示)
- 賃貸物件
(省略) - 家賃
1ヶ月金12万円 - 賃貸期間
平成22年12月1日から平成24年11月30日までの2年間
不一
平成 年 月 日
△△県●●市●●区2丁目1番10号
山田太郎 印
△△県●●市●●区5丁目11番12号-405号室
被通知人 殿
家賃支払いを求める裁判などの手続について説明してください。
家賃を滞納している借家人がいるのですが、明け渡して貰ってもすぐに次の入居者が埋まらないことから、できれば出て行って貰うのでは無く家賃を支払って貰いたいと思います。でも、督促状を送るだけではもう効果が上がりそうにありません。どうしたらよいでしょうか。
結論からいうと、裁判所を使った手続に移行するのをおすすめします。裁判所から呼び出しが来ることによって先方にも相当のプレッシャーを与えることができますし、判決がなされれば、その判決を使って借家人の給与等を差し押さえることができるからです。
この場合、①支払督促、②少額訴訟、③通常訴訟の3種類があります。
請求できる内容 | 手続 | 手間 | 費用 | |
支払督促 | 滞納家賃等の金員支払請求 (金額上限無し) |
簡易裁判所 | 先方が争わなければ非常に簡単 | 弁護士に依頼せずとも可能なので、印紙代のみ |
少額訴訟 | 滞納家賃等の金員支払請求 (60万円が上限) |
簡易裁判所 | 証拠調べの手続が通常訴訟より簡略化されている。 | 弁護士に依頼せずとも可能なので、印紙代のみ |
通常訴訟 | ①滞納家賃等の金員支払請求 (金額上限無し) ②物件の明渡請求 |
地方裁判所 | 通常の訴訟の手続を行わなければならないので、かなりの手間がかかる。 | 家主が自分自身で行うこともできるが、弁護士に依頼した方が良いと思われるので、弁護士費用がかかる。 |
1回の家賃不払いで借家人を追い出せますか。
家賃の支払いが1ヶ月遅れた借家人がいます。うちの物件は好立地なので、すぐに契約を解除して明け渡して貰い、次の借家人に入って貰おうと思います。契約書には「家賃を1ヶ月滞納した場合には当然に賃貸借契約は終了する」とあるので、ただちに明け渡しを求めることができるのですよね。
残念ながらできません。
明け渡しを求めるためには、
①家賃を支払ってくれるよう相当期間(通常は1週間程度)を定めて催告
②3ヶ月程度の滞納
が必要とされています。
契約書に「家賃を1ヶ月滞納した場合には当然に賃貸借契約は終了する」という文言が入っていた場合でも裁判所は、1ヶ月の滞納で賃貸借契約の解除を認めることはまずありません。家賃滞納が長引き、それによって「家主と賃借人の信頼関係が破壊」された場合に限って賃貸借契約の解除を認めるのです。
具体的には3ヶ月程度の滞納が無いと「家主と賃借人の信頼関係が破壊」とは見なされません。
したがって、明け渡しが認められるのは、支払期限を決めて支払を督促し、滞納が3ヶ月間程度継続した場合、ということになります。
もっとも、滞納が1ヶ月程度しか無くても、明け渡しを求めることはできます。その結果、借家人が賃貸借契約を合意解除し、任意に明け渡すことに同意すれば何の問題もありません。
家賃を支払わない借家人に対して鍵を換えたり無理矢理追い出したりしてもよいでしょうか。
長期間家賃滞納が続いている借家人がいるので、すでに賃貸借契約を解除する旨の内容証明を送りました。それでも全く連絡がありません。実際に住んでいることは間違いないようですので、鍵を換えたり、中に入って無理矢理追い出したり、家具類を撤去してもよいでしょうか。
いけません。
明け渡しを求めるためには、①賃貸借契約の解除→②明け渡し訴訟で勝訴判決をとる→③強制執行により借家人を追い出す、という手続を踏まなければなりません。
①の解除だけで、②③を省略して、鍵を換えたり中に入って借家人を追い出すことは、いわゆる「自力救済」として民事上損害賠償を求められたり、刑事告訴される可能性もあります。
すなわち、仮に賃貸借契約が解除されたとしても、借家人は部屋を「占有」していることにはかわりがないため、その「占有権」を侵害され、裁判によらずに「自力救済」によって追い出された場合、大家に対する損害賠償請求が可能となるのです。
また、借家人に無断でその部屋に入れば、住居侵入罪が成立する可能性がありますので、安易な自力救済は絶対にしないように気をつけてください。
借家人が家賃を敷金から差し引いて欲しいと言ってきたのですが、どのように対処したら良いでしょうか。
まず、大家さんには、そのような要求に応じる義務はありません。したがって、借家人の要求は拒否し、家賃を支払うように求めるべきです。
仮に借家人がそれに応じず、家賃を支払わなかった場合には、単なる家賃不払いとなりますので、賃貸借契約を解除した上で明け渡しを求めることになります。
もし何らかの特殊な事情があって敷金からの差し引きに応じる場合でも、慎重にすべきでしょう。
敷金から家賃を差し引いた結果、明け渡し終了後の動産類撤去費用等が不足する場合もあるからです。
明渡を求める内容証明の文案を教えてください。
すでに家賃滞納が4ヶ月に及ぶ借家人がいます。直ちに明け渡しを求めたいのですが、内容証明の文案を教えてください。
家賃滞納が4ヶ月に及ぶということですので、1週間程度の支払期限を決めて支払を督促し、その期間内に支払ってこなければ明け渡しを求めることができます。
内容証明文案
明渡請求書
冠省
私は貴殿に対し、下記の通りの約定でマンション1室を賃貸していますが(以下「本件賃貸借契約」といいます)、貴殿は平成23年1月から同年5月分までの家賃合計50万円を遅滞しています。
つきましては、本書到達後7日以内に契約において定めた振込口座に滞納家賃全額をお振り込みください。
万が一振り込みが無い場合には、本件賃貸借契約第●条、民法第541条に基づき、本件賃貸借契約を解除致します。
その場合、即座に貴殿に本件物件の明け渡し、及び滞納家賃全額の支払いを求めることになります。さらに、貴殿がかかる明け渡し等に応じない場合には、訴訟を提起することになりますので、念のため付言いたします。
(賃貸借契約の表示)
- 賃貸物件
(省略) - 家賃
1ヶ月金10万円 - 賃貸期間
平成21年12月1日から平成24年11月30日までの3年間
不一
平成 年 月 日
△△県●●市●●区2丁目1番10号
山田太郎 印
△△県●●市●●区5丁目11番12号-405号室
被通知人 殿
どのような場合に建物の明け渡しが認められるのでしょうか。
建物の明け渡し請求をするためには、まず賃貸借契約が終了しなければなりません。どのような場合に契約が終了するかを図示したのが以下の図です。
借家人に賃料不払い、使用目的違反など債務不履行がある場合その債務不履行は信頼関係を破壊するほど重大なもの
(たとえば賃料不払いであれば3ヶ月以上か)
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はい
↓契約解除可能
|
いいえ
↓契約解除できない
契約継続
|
↓
契約期間の定めがある場合
契約期間満了の1年前から6ヶ月前に
更新拒絶の通知をしたか
|
はい
↓
更新拒絶の正当事由あるか
|
はい
↓契約終了
|
いいえ
↓契約継続
|
↓
契約期間の定めがない場合
いつでも解約可能で、解約申し入れ後
6ヶ月が経過することによって契約終了
|
|
↓
解約に際して「正当事由※」あるか
|
はい
↓契約終了
|
いいえ
↓契約継続
※「正当事由」とは何か
上の図からわかるように、いったん賃貸借契約を締結すると、たとえ期間が定められている契約であっても、「正当事由」が無い限り、一方的に賃貸借契約を終了させることはできません。
では、この「正当事由」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
法律上は以下の5項目が挙げられています。
a 大家と借家人が当該建物を必要とする事情
b 借家契約に関する従前の経過
c 建物の利用状況
d 建物の現況
e 立退料
「正当事由」はどのような場合に認められるのでしょうか。
賃貸借契約を終了させるために「正当事由」が必要なことはわかりましたが、具体的にはどのようなケースで「正当事由」が認められるのでしょうか。
ここでは、建物の老朽化を理由として、立ち退き料の提供を条件として「正当事由」ありと認めた裁判例を、一部事案の内容を編集して紹介します(東京地方裁判所平成平成20年4月23日判決)。
この裁判例では、都心の一等地にある古い木造アパートについて、建て替えの必要性を認め、本件建物に実際に居住している借家人については立退料の提供を条件として、残業の際に寝泊まりしている程度の借家人については立退料の提供無しに「正当事由」ありと認めたものです。
事案の概要
- 都心の一等地にある老朽化(昭和4年頃築造)した木造3階建てのアパート、裁判時の借家人は5人で、賃料は5人合計で月額2万1610円、年額合計25万9320円)だった。
- 賃貸人は本件建物を取り壊して自社ビルを建築する予定。
- 賃借人の一部は本件建物に長年居住し続けているが、一部は残業の際に寝泊まりする程度の利用しかしていない。
裁判所の判断
- ア 賃貸人が本件建物の使用を必要とする事情
- ①本件建物を取り壊して自社ビルを建築することで、現在拠出している事務所賃料等の支出を抑える、②自社ビルの一部を賃貸して賃料収入を得るとともに、自社ビルに事務所を置いて事業エリアを都心エリアに拡大する、ことからすると、賃貸人には、本件土地建物を使用する必要性がある。
- イ 賃借人らが本件建物を使用する必要性
- 賃借人のうち、Aについては、①本件建物に長年居住し続けていること、②年齢面及び収入面からすると本件建物の明渡しによって、生活の基盤を失いかねないことになることは明らかであり、本件建物を使用する必要性が高い。 他方、Bについては本件建物について残業の際に寝泊まりする程度の利用しかしていないのであって、本件建物を使用する必要性は著しく低い。
- ウ 借家契約に関する従前の経過
- 現在の家賃は本件建物の近隣地域における賃料相場の約23分の1であって著しく安いと言わざるを得ず、本件建物を取り壊した上、新建物を有効利用することが、社会経済的に有益である。
- エ 建物の利用状況
- 本件建物は、築約80年の木造建物であり、建物に傾きが認められるなど、建物の基礎及び躯体に、補強工事などでは対応できない相当の経年劣化が認められ、耐震及び防火上、危険な建物である。
- オ 結論
- 以上の点を考慮して、本件建物を使用する必要性が高いAについては、相当額の立退料の提供を条件として、必要性が低いBについては立退料の提供なしに、「正当事由」を認めた。
借家人が家賃を滞納している場合、当然明け渡し請求は認められるのでしょうか。
家賃の支払いが1ヶ月遅れた借家人がいますが、契約書には「家賃を1ヶ月滞納した場合には当然に賃貸借契約は終了する」とあるので、ただちに明け渡しを求めることができるのですよね。
残念ながらできません。
明け渡しを求めるためには、
①家賃を支払ってくれるよう相当期間(通常は1週間程度)を定めて催告
②3ヶ月程度の滞納
が必要とされています。
契約書に「家賃を1ヶ月滞納した場合には当然に賃貸借契約は終了する」という文言が入っていた場合でも裁判所は、1ヶ月の滞納で賃貸借契約の解除を認めることは、まずありません。家賃滞納が長引き、それによって「家主と賃借人の信頼関係が破壊」された場合に限って賃貸借契約の解除を認めるのです。
具体的には3ヶ月程度の滞納が無いと「家主と賃借人の信頼関係が破壊」とは見なされません。
したがって、明け渡しが認められるのは、支払期限を決めて支払を督促し、滞納が3ヶ月間程度継続した場合、ということになります。
もっとも、滞納が1ヶ月程度しか無くても、明け渡しを求めることはできます。その結果借家人が賃貸借契約を合意解除し、任意に明け渡すことに同意すれば何の問題もありません。
建物が老朽化している場合に明け渡しを求めることはできるのでしょうか。
建物が老朽化し、このままでは地震が来たら倒壊の危険性があります。建て替え工事のため現在の借家人に出て行って欲しいのですが、難しいでしょうか。
まず、このような場合に明け渡しが認められるには「正当事由」が無ければなりません。
「正当事由」とは何か
いったん賃貸借契約を締結すると、たとえ期間が定められている契約であっても、「正当事由」が無い限り、一方的に賃貸借契約を終了させることはできません。
では、この「正当事由」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
法律上は以下の5項目が挙げられています。
a 大家と借家人が当該建物を必要とする事情
b 借家契約に関する従前の経過
c 建物の利用状況
d 建物の現況
e 立退料
では、「正当事由」が無ければ一切立ち退きは認められないかというとそうではありません。実際には、大家さんと借家人が話し合いをし、借家人が納得しさえすれば立ち退いてもらうことは可能です。もちろん、その場合に借家人に納得してもらうために立退料などのお金を支払うことも必要です。
話し合いの方法には以下のようなものがあります。
- ① 任意の交渉
- 直接明け渡しを求めて話し合いをすることです。
- ② 民事調停
- 簡易裁判所に民事調停を申し立てる方法です。調停委員という専門家が間に入って、双方の意向を確認し、調整を試みます。専門家である調停員が中立的な立場で関与しますので、任意の交渉が難しいケースでも調停であれば話し合いが成立する余地があります。もっとも、調停も話し合いがベースの手続ですので、片方がどうしても納得しない場合、調停不成立ということで手続を終了せざるを得ません。
これら話し合いによってもお互いに歩み寄りが難しい場合、どうしても明け渡してもらいたければ家主としては裁判を起こすしかありません。
もっとも「正当事由」が認められなければ家主が敗訴してしまいますから、裁判を起こすべきか否か、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
立退料はどのような場合に必要なのでしょうか。
立ち退きを求める場合は「立退料」が必要だと聞きましたが、借家人が家賃を滞納しているような場合でも立退料を支払わなければならないのでしょうか。また、特に借家人に問題が無い場合でも、高額な立退料を支払えば、どんな場合でも立ち退きは認められるのでしょうか。
- ア 立退料が不要な場合
- 立退料が要求されるのは、通常の賃貸借契約において大家側の都合で解約や更新拒絶をする場合です。
したがって、借家人が家賃を滞納してそれが長期間に及んだことによって信頼関係が破壊された場合や、定期借家契約(「定期借家契約とは」参照)において契約期間が満了した場合には、立退料なしで契約が終了し、明け渡しを求めることができます。
もっとも、このように法律上は立退料を支払う必要性が無い場合でも、早期解決のために、引っ越し代程度の立退料を支払って、さっさと出て行ってもらう、ということも十分に考えられることです。 - イ 高額な立退料を支払えばどんな場合でも立ち退きが認められるわけではない
- 一方、立退料の支払いは、大家側の「正当事由」を補完するものに過ぎません。
したがって、「正当事由」が無い場合、すなわち、大家側に当該建物を利用する必要性が全くない一方で、借家人側には必要性が高いにもかかわらず、単に「気にくわないから」という理由だけで賃貸借契約を解除したい、という場合などはいかに高額な立退料を提供したとしても、契約の終了は認められません。
定期借家契約とは
借家人に立ち退いてもらう場合に立退料がいらない「定期借家契約」というものがあると聞きました。どのような契約なのでしょうか。
定期借家契約とは、契約期間が満了した場合に更新されること無く確定的に契約が終了し、ただちに借家人は当該物件を明け渡さなければならないという契約です。
通常の賃貸借契約と異なり、更新拒絶の際に「正当事由」や立退料の提供は一切必要ありません。
なお、契約終了後も借家人が居住し続け、大家がこれに異議を述べないような場合であっても、契約関係は確定的に終了することとなります。
ただし、このように特殊な契約であるために、契約締結の際などには、通常の賃貸借契約とは異なる手続をすることが法律で決まっています。
詳しくは以下の表をご覧ください。
定期借家契約と通常の借家契約との比較
定期借家契約 | 従来型の借家契約 | |
1.契約方法 | ①公正証書などの書面による契約に限る ②さらに、「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを契約書とは別に、あらかじめ書面を交付して説明しなければならない |
書面でも口頭でも可 |
2.更新の有無 | 期間満了により終了し、更新はない | 正当事由がない限り自動的に更新する |
3.建物の賃貸借期間の上限 | 無制限 | 2000年3月1日より前の契約 ・・・20年 2000年3月1日以降の契約 ・・・無制限 |
4.期間を1年未満とする建物賃貸借の効力 | 1年未満の契約も可能であり、当該契約期間に従う | 期間の定めのない賃貸借とみなされる |
5.建物賃借料の増減に関する特約の効力 | 家賃の改定に関する特約がある場合にはその特約に従い、それ以外の条件による家賃の増減額請求はできない。 | 特約の有無にかかわらず、当事者は、賃借料の増減を請求できる |
6.賃借人からの中途解約の可否 | 床面積が200㎡未満の居住用建物で、やむを得ない事情により、生活の本拠として使用することが困難となった借家人からは、特約がなくても法律により、中途解約ができる ①以外の場合は中途解約に関する特約があればその定めに従う |
中途解約に関する特約があれば、その定めに従う |
契約書サンプルや契約書の記載方法については、国土交通省のHP内のサイトをご参照ください。
賃借人死亡の場合のこと
マンションの1室を貸していたのですが、先日借家人が死亡しました。そこで、同居していた方々にも建物を明け渡していただきたいのですが、可能でしょうか。
まず、死亡した借家人に相続人がいれば、それらの相続人が借家権を相続しますので、きちんと家賃を支払っている限り賃貸借契約を解除することはできません。
また、死亡した借家人に相続人がおらず、内縁の妻しかいなかった場合にも、同じく契約を解除することはできません。内縁の妻には相続権はないのですが、その生活を守るために、特別に法律が保護を認めています。具体的には、亡くなった借家人と同居していた内縁関係者や事実上の養親子関係者は、引き続き無くなった借家人の権利義務を相続し、居住を継続できるのです(借地借家法36条1項)。
逆に、同居人が単なる友人などであった場合には当該友人が契約関係を引き継ぐことはあり得ませんので、明け渡しを求めることができます。
ペット禁止特約違反の借家人を追い出せるか
契約書では「借主は貸室内で犬猫などのペットを飼育してはならない」という条項を設けていますが、どうやら入居者の一人が無断で犬を飼っているようです。契約違反を理由に賃貸借契約を解除して明け渡しを求めることはできるでしょうか。
賃貸借契約においてペット禁止特約があるにもかかわらずペットを飼育していた場合には、当該特約違反を理由として賃貸借契約を解除することができます。
裁判例の中には、ペット禁止特約がある場合において、小型犬1匹を飼育し、5年近く貸し主からクレームが無かったケースにおいても、特約違反による契約の解除を認めたものがあります。この事例においては、家主は一週間以内に犬の飼育を中止するよう催告するとともに、右期間経過により本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしていますが、そのような短期間の催告期間も有効とされています(東京地判平成7年7月12日)。
この裁判例は、「確かに、犬を飼育すること自体は何ら責められるべきことではないが、賃貸の共同住宅においては、犬の飼育が自由であるとすると、その鳴き声、排泄物、臭い、毛等により当該建物に損害を与えるおそれがあるほか、同一住宅の居住者に対し迷惑又は損害を与えるおそれも否定できないのであって、そのような観点から、建物内における犬の飼育を禁止する特約を設けることにも合理性がある。」としています。
ただし、実際には、賃貸借契約を解除するということは借家人の生活の本拠を奪うことですから、通常、裁判所は解除事由の有無について慎重に判断します。したがって、たとえペット禁止特約がある場合でも、当該ペット飼育行為によってどのような迷惑をオーナー、あるいは近隣の人が被っているかについて証拠を集めた上で、催告期間は1ヶ月程度おいて解除する方が無難ではないかと思われます。
無断転貸をした借家人を追い出せるか
借家人の中に、友人から家賃をとって部屋の一部分を貸している人がいます。契約書には無断転貸をした場合には賃貸借契約を解除できると定めてありますし、法律でもそうなっていると聞きました。本件の場合、契約解除はできますか。
たしかに、民法612条は、1項で、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することができない旨を定め、2項で、賃借人がこの規定に違反して第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができると規定しています。
通常の賃貸借契約においてもこれと同内容の条項があることがほとんどでしょう。
ただし、無断転貸が行われた場合であっても、それが「賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情のあるとき」は、賃貸人は賃貸借契約を解除をすることはできないというのが確立した判例です。
そこで、この「特段の事情」とは何か、ということが問題になります。
裁判例において「特段の事情」があるとして解除が許されなかった事例は、
- 賃借人と転借人とが親族関係等にあり、そのため使用収益の実態や主体に実質的な変化がない場合、
- 賃借家屋のうちのごく小さい部分を転貸したなど転貸が軽微なものである場合、
- 賃借人と賃借権の譲受人とが、法律的・形式的には別人格であるけれども、賃借権の譲受人が賃借人により税務対策上設立された会社にすぎないなど、社会的・実質的には同一である場合などがあります。
本件においても、この②に該当するかどうかが問題となります。その点についての事実確認は必要でしょうから、まずは転貸状態の解消を求める交渉からスタートするべきでしょう。
入居時に約束した用途とは異なる用途で物件を使用している賃借人を追い出せるか。
店舗物件について、熱帯魚販売業を使用目的として賃貸したのですが、借り主はペット販売業を営もうとはせず、中で何か作業をしているようで騒音や悪臭が発生して近隣の住民から苦情が出ています。契約書には入居時に約束した用途とは異なる用途で部屋を使用している場合には契約を解除することができるとしていますので、契約を解除できるのでしょうか。
賃貸借契約は通常部屋の使用目的を定めて締結されるものですし、借り主はその目的にしたがって部屋を使用しなければなりません。これを借り主の用法遵守義務(民法616条、594条1項)と言います。また、契約書でも同様の条項を定めているのがほとんどだと思います。
ご質問の場合、この用法遵守義務に違反していることは明らかですから、いずれの場合も契約を解除できるのが原則です。
しかし、用法遵守義務違反がある場合であっても、それが「賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情のあるとき」は、賃貸人は賃貸借契約を解除をすることはできないというのが確立した判例です。これは無断転貸の場合と同様です。
本件は、熱帯魚販売を目的としているということで、騒音などが発生しない業種であることを前提として賃貸しているにもかかわらず借家人が当該目的と全く異なる目的のために使用し、かつ、その使用により悪臭や騒音が生じ、苦情が出ていると言うことですから、このような「特段の事情」が無いことは明らかではないかと思います。したがって賃貸借契約の解除は認められるでしょう。
本件と同様の事例(東京地裁判決平成18年2月17日)において裁判所は賃貸借契約の解除を認めています。
物件を無断で増改築した借家人を追い出せるか。
使用目的を診療所として建物を賃貸したのですが、契約締結後しばらくしてから、診療所として使いやすくするために、部屋の間仕切り等を撤去して間取りを変更したり、天井に下地を貼ってその上に断熱材を貼ったりするなどの工事をしています。契約書には「賃借人は、本件建物を現状のまま使用するものとし、原告の文書による承諾なくして本件建物の改造造作・模様替等の現状変更をしてはならない。」とありますので、この条項にしたがって契約を解除することができますでしょうか。
物件の所有権は大家にありますから、賃借物件の増改築をするのには大家の承諾が必要であることは当然であり、賃貸借契約においては無断で増改築した場合には契約を解除できる旨の条項があるのが通常です。
もっとも、ここでも裁判所は「賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情のあるとき」に該当するかどうかを問題とし、「特段の事情」があれば、賃貸人は賃貸借契約を解除をすることはできないとしています。
増改築の場合、増改築の範囲、その目的、増改築の必要性、増改築工事をめぐる当事者間の交渉経緯などを考慮してこの「特段の事情」があるか否かを判断しています。
上記設問の元となった事例(東京地裁判決平成18年11月30日)においては、裁判所は
- 増改築工事が耐力壁を撤去した工事である点で構造等にかかわる重大な工事であり、建物の間取りを変更する大きな模様替え工事であったこと
- 増築工事は、賃借人の使用上の利便性向上を目的として行われた工事であって、格別緊急を要するものであったとは認められないこと
- 賃借人は、賃貸人の承諾を求める機会が十分にあり、かつ、承諾を求めることができないような切迫した状態ではなかったにもかかわらず、上記のような工事を無断で行ったこと
- 賃借人は、工事の直後に同工事の施工について苦情を受けたにもかかわらず、事後承諾を得ようとすらしなかったばかりか、裁判に至るまで、工事内容や工事理由等について明確な説明もしなかったこと
などを理由として、契約書の無断増改築禁止条項に違反してなされた増改築工事の施工には「特段の事情」はなく、当該条項違反を理由とする解除は有効であると認めています。
家賃の値上げが認められるのはどのような場合ですか
まず、契約上「家賃の値上げをしない」という特約がある場合には値上げはできません。そうでない場合、法律上、家賃の値上げが認められるのは、次の場合です(借地借家法32条1項)。
- 固定資産税や都市計画税など、土地建物に対する税金の負担が増えたとき
- 土地建物の価格の上昇などの経済事情の変動があったとき
- 近隣の同様の物件と比べ、家賃が不相当に低くなったとき
家賃の値上げをしたいのですが、どのようにしたらよいのでしょうか。
賃料の値上げをするには、以下の方法があります。
- ①借家人との協議
- まずは借家人と協議をするのが第一です。後述するように借り主の承諾無く家賃を一方的に増額するためには、調停や訴訟などの手続をとらなければなりませんが、それらの手続医には時間も費用もかかります。借家人との協議によって話がまとまれば一番いいのです。
- ②調停
- 仮に話し合いがまとまらなければ簡易裁判所における「調停」を申し立てることになります。家賃の増減を請求する場合には、いきなり訴訟を起こすことはできず、まずは調停を申し立てることに法律上なっています(調停前置主義)。
「調停」というのは、調停委員という第三者に間に入って貰い、調停委員が双方の言い分を聞いて、適切な解決案を示し双方が納得すれば調停が成立するという手続です。訴訟と比較して柔軟な解決が可能ですが、あくまで話し合いがベースの手続ですので、どちらかの意思に反して一方的に何かを決めることはできないという限界があります。
調停が成立すれば、「調停調書」という書類を作成することになります。この「調停小著」には判決と同じ強い効力があります。 - ③訴訟
- 仮に調停が成立しない場合、貸し主としては訴訟を起こすことになります。訴訟を起こすと、裁判所は本件において家賃の値上げが認められるべき事情があるかどうかを審理し、判決を下すことになります。
↓
まとまる
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まとまらない
|
↓
|
ある
↓
値上げ不可
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ない
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|
|
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↓
- 固定資産税や都市計画税など、土地建物に対する税金の負担が増えたか
- 土地建物の価格の上昇などの経済事情の変動があったか
- 近隣の同様の物件と比べ、家賃が不相当に低くなったか
↓
話し合いがつく
|
話し合いがつかない
|
↓
↓ 判決
裁判をせずに家賃を値上げする方法はありませんか
一定期間ごとに一定の率で家賃が増額する旨の特約(自動増額条項)を賃貸借契約書の中に入れておくという方法があります。
また、調停では、
- 固定資産税や都市計画税など、土地建物に対する税金の負担が増えたとき
- 土地建物の価格の上昇などの経済事情の変動があったとき
- 近隣の同様の物件と比べ、家賃が不相当に低くなったとき
したがって、これらの事情と連動した形で家賃が増額する旨の自動増額条項は有効であると考えられます。
ただし、単に連動してれば良いというものでも無く、賃借人に一方的に不利にならないような内容である必要があります。
たとえば、裁判例(最高裁判所昭和44年9月25日)においては、地代の算定基準として更地の評価額が用いられており、当該更地の評価額=固定資産評価額の4倍という特約が定められていたケースにおいて、当該特約が存在していたとしても、それは「将来生ずべき事情のいかんにかかわらず、常に右の基準によって更地適正価額を算出するものとして右基準を定めた趣旨ではない」として特約を制限解釈する旨判示しました。
また、上記の事情と全く連動しない自動増額条項、たとえば「賃料は3年毎に改定され、改定毎に賃料は20%ずつ増額する」などの条項は裁判になった場合、無効とされる可能性が高いのではないかと思われます。
家賃の増額を求める内容証明を出したところ家賃を払ってこなくなりました。どうしたらよいでしょうか。
家賃を支払ってこなければ単なる借家人の債務不履行ということになりますので、家賃不払いが信頼関係を破壊する程度、具体的には3ヶ月程度になれば賃貸借契約を解除することができます。
ただし、賃借人が家賃を「供託」すると、それは法律的には家賃を支払ったのと同じとみなされますので、契約解除はできません。
「供託」とは、一定の理由がある場合に国の機関である供託所にお金を預けることで、債務の支払があったものと同様に取り扱うという制度です。
家賃増額を求める請求に対しては、法律上、借家人は相当と思う金額を支払えばいいことになっています(借地借家法32条2項)ので、通常は従前通りの家賃を供託すると思われます。
その後、家賃増額についての話がまとまらず、調停を経て家賃増額の裁判が確定した場合には、増額した家賃と供託した家賃の差額、及び同差額に対する年1割の利息をつけた金額を請求することができます。